おもひでぽろぽろ

おもひでぽろぽろ [DVD]

おもひでぽろぽろ [DVD]

基本的に現実逃避をするためには、目触り耳触り、ともに優しいジブリ映画を見る。
今日も現実逃避で「おもひでぽろぽろ」を見てしまった。


小学校の頃の算数で分数ができない話に毎回共感してしまう。
私も分数の掛け算はひっくり返して掛けるという意味がよくわからなかった。
テストではオリジナル理論(理論というほどのものではないが)を展開し、見事0点を取った覚えがある。
0点を見たのは、この時が初めてであった。高校時代もさすがに0点はなかった。


物わかりの悪い人間は、ひっくり返せと言われても素直にひっくり返すことができないのである。
映画の中では、主人公の姉が「分数はひっくり返せ」とだけ小学校教育的に教えてしまうのだが、
もし仮に私の子供が小学校の算数で分数のテストで0点をとったらそういう教え方はしたくない。


\frac{1}{2} \div \frac{1}{6} =3


某小説にも出ているので、割に有名な教え方であるが、割り算というのは「割られる1/2」の中に
「割る1/6」が何個あるか数えている。この場合は三つある。
意味を何度も何度も繰り返して教えていけばきっと身に着くと思うし、むしろ素直な人間が「ひっくり返せばよい」
という表面的な計算法の理解で良い点数を取るのは学校教育のおかしなところである。
(素直というのも評価すべき点だとは思うけど、というより生きていくためには一番必要なことだけど)
この作品の中では、分数計算で小学校教諭の指導に素直に従った子供はその後の人生、何の躓きもなく進むというが、
一方でこれに素直に従えない人間は、舗装のされていない獣道を歩くような人生になるだろうという。
作中の主人公「タエコ」ちゃんは25点だったが、私はそれ以上に物わかりが悪く0点だったわけで、
なぜか妙な優越感のようなものを感じてしまう。
しかし、「小学校の分数ネタ」って他のドラマにも出てきたし、小説なんかにもたまに出てくる。


分数ができない小学生というのは、「わからない」ということも言葉がつたないので教える側に伝えることができない。
大人が分数というのはこういう理屈のものだよ、といったって、受け止める言葉のネットが発達していないうえに、
「妥協的理解」という大人びたやり方もできない。
所謂「要領が悪い」というタイプのことども判別は確かに分数の計算でできるかもしれない。
「これなら簡単に分かるでしょ、理屈もすべていってあげてるでしょ」と脅迫的な態度が一番いけないような気がする。
大人と言葉を共有して、大人は確かにその言葉をある程度使い慣れているから言えば分かると思っているが、
子供にしてみれば頭の中でえらいことが起こっているわけで、それについて仔細に観察できる人間でなければ、
小学校教諭は務まらないと思うが、あいにくそういう小学校教師は少ないと思われる。
大人になるといつの間にか、言葉の世界に住んでいて、そういう小学生の原理的な理解のできなさというのを忘れてしまう。
国語でも算数でも、小学生の頭の中で起こるダイナミズムに注目できない人間は、なんだかなぁ。
でもこのネット時代の小学生というのは、分数で悩む子供なんて案外少ないかもしれない。
宿題もgoogle先生に尋ねるのかもしれない。むしろ「妥協的理解」はネット世代の小学生は得意と思われる。
今の小学生とネットがなかった時代のアナログな小学生を比較すると、その生態は随分違うはずだ。
従って、この「おもひでぽろぽろ」も時代に取り残された映画になるかもしれない。
ネットを子供の頃から見ながら育ったら、そんなに素朴な小学生にはならないだろう。恐い話だ。


映画の最後の部分で、「アベ君」について主人公が語るシーンも毎回印象に残る。
彼はいつも垢がこびり付いたシャツを着ていて、鼻くそをほじくり、とにかく汚い。
手のひらは垢の筋ができているし、おそらく洗っていないシャツから発せられる匂いなんかもあったのだろう。
彼は転校生で、父親の都合で転勤が多く、友達も作れないうえに、クラスの中での立場も弱い。
最後にタエコちゃんに「お前とは握手してやんねーよ」というセリフは、
他の人間にそれをすごむことができないで、タエコちゃんだけに本音が出せたという。
私は別に来ている服が非常に汚いというわけではなかったけど、アベ君にはなぜか毎回共感してしまう。


小学校時代の話を丹念に描いているよくできた映画なのではないかと思う。
運動神経のよい男の子だとか、愛々傘だとか、女子の生理だとか、転校生の話だとか。
学級集会の会議の様子もよく再現されている。
小学校の頃の記憶はあっても、なかなか再現できないものだと思う。言われてみればそうだったような思い出ばかり。
あったなーというエピソードがたくさん盛り込まれているので、現実逃避には良い映画である。


小学校高学年の思い出と、20代で働き始めたり、結婚し始めたりする若者は、意外によく絡み合うらしい。
それもドラマチックに。
あんなことあったよなぁと思いだしつつ、前に進むらしい。
小学校の自分は今の自分なんて想像しなかっただろうなぁ。
大学生になるなんて考えてもいなかったし(親がともに大卒なのでその方向に仕向けられたのは明らかだけど)、
性格も随分違ったものになっているかもしれない。
小学校時代のタエコと20代後半のタエコが一緒に描かれている場面が結構あるけど、
この物語の場合は、小学校時代のタエコが笑顔で20代のタエコを励ますのだ。
この辺りでなぜかジーンとしてしまう。


たまには、私も小学校の頃の私を隣に復活させてあげて、表情をうかがうのも悪くないかもしれない。
明日から学校。冬休みは現実逃避に終わった。状況は良くない。