激震

ボ/ン/ク/ラ/ー/ズと会長の一戦を見た。
機械と人間の一局なんて毎回であるが心躍るものがある。
コロセウムを見るのと同じような感じなのだろう。
機械は猛獣としか言いようがないほど強くなっている。


記者会見を見たけど、ソフトとの対局を禁止して以来じらし続けてきた連盟も、今回の対局の結果を受けて
ソフト対戦に対して寛容な姿勢を取らざるを得なくなった。
引退しているとはいえ、一時は名人にまで上り詰めた棋士が負けてしまったわけで、
前節のあ/か/ら戦は「女流棋士だから」と言い逃れできたわけだけど、今回は「引退者だから」とは言わなかった。
というより言えなかったんだろうなぁ、それなりに準備もしてきたことだろうし・・・。


実力によって、将棋界をソフトに対してオープンにさせたボ/ン/ク/ラ/ー/ズは、
将棋ソフトと連盟のパイプを強引に広げたわけで、時代を切り開いたパイオニア的なソフトになってしまった。
おまけに24の世界でもまったく人間を寄せつけないレーティングに到達しているし、
この短い期間にソフトの強さをつきつけられた連盟は、そういう対応をせざるを得なかったのだろう。


対局中の解説で、矢内氏が「このソフトの棋力はどれくらいのものか」と竜王に問うた時に、
「プロレベルという言葉を当てるのはすでに間違っている」とだけ竜王はいい、具体的に奨励会何段だとか、
あるいはプロ何段クラスだとかという棋力判定については言葉を濁したのであるが、
「プロレベル」という言葉が間違いなのであれば、「トッププロレベル」とか「超プロレベル」とか
そういう言葉が次に来てしまうわけで、あとは推して知るべしということか。
現在のソフトの実力とその将棋界への影響を考慮すれば、竜王の立場から具体的にボ/ン/ク/ラ/ー/ズがどれくらの棋力だとは
なかなかはっきりと言えないことに苦心しながらコメントしていたのは印象に残っている。
はたして竜王の中で判定されていたであろう具体的な棋力というのは、一体どれほどのものなのか非常に気になるところである。
しかし、今回の対コンピュータ用の特殊な戦型だけをもってして棋力の判定も難しいものがあったのだろう。


間違いなく将棋は近々チェスのようになるだろう、ということは将棋ファンも突きつけられてしまった結果になった。
連盟のほうも記者会見では、「マラソンと自動車の関係と同じような関係を作り上げたい」ということを公的に発表していたし、
いずれ世界で一番強いのはソフトであり、人間は人間なりに将棋を続けていくような世界観を
連盟自体がすでに想定して受け入れているということは、今回の記者会見から明らかである。
将棋の場合、チェスと違い持ち駒というのがあるから、
チェスよりもコンピュータの計算力が将棋の局面変化に追いつくのに時間がかかっていたわけだけど、
「チェスよりも計算量が多くなる」という事実における「計算量」の部分は、
プログラムの最適化、ハード面での計算能力の向上がかけ合わさる形でいずれクリアされることは明確だったわけで、
当然といえば当然なのであるが、将棋ファンとしてはかなり悲しい結果になった。


これから将棋界というのは、この一局を転機にして随分と変化していくことだろう。
電話交換手というのがコンピュータにとって代わられたのは昔の話だけど、話としては同じ話だろう。
電話交換手はお仕事だけど将棋はエンターテイメントだから、世間での事の変化としてはその部分によって多少違ってくるだろうけど、
ラソンが人間が人間の足で一生懸命走ることに意義を持つなら、我々人間はこの機械の出現に押される形で、
もっと額に汗するべきことを奨励され、怠慢を許されないような世界になってしまうのは、私のような不精な人間には、
牧歌的な人間の世界をやはり脅かすものだと思えてしまう。


ラソンと自動車の関係のように、人と機械が付き合うというのは、なかなか人にとってはハードであると思う。
この雰囲気というのは、2000年初めIT企業が跋扈した小泉改革時代を思わせる。
働かざる者食うべからず。今の大阪知事はまた彼と同じようなことをいって大衆を煽っているけど、
そちらの方向に行っては、多くの人間が食うに困るわけだけど、一体なぜ彼の威勢の良い文句に賛成してしまうのか。
世の中のこういう運動と今回のソフトと人間の抗争は、全く無関係ではないというより深いところで連携しているように思える。
いやはや、人間にはつらい時代である(笑)。


(追記)
ネットでいわれていることだけど、確かにH×Hの王と会長の一戦と雰囲気似ていた。
あまりに似ているので苦笑い。