県庁の星


大学卒業すると、人はこうなるのかと思った。
難しい横文字を並べ立てて、世間でそれが動くかといえば動かない。
私も経験があるのだが、どれだけ言葉を並べ立てたところで、現実的にその言葉が反映されるとは限らない。
力のない言葉は無意味に響いて、それが何かの形になったりするということがない。


会議もそうである。
実体のない横文字、戦略、データ。
それをさも自分で作り上げたようにプレゼンして、言葉の上だけで終わるようなことばかり。
その言葉を話す自分に満足して、それ以上の進展はない。


世の中こそ言葉で把握できない魑魅魍魎である。
マーケティング」をして、そこから「消費者傾向」というのを浮かび上がらせる。
そして新たな「戦略」を考える。
その繰り返しで次第に商品が売れていくということもあるのかもしれないが、
全てが妄想である場合もあるのだろう。


大卒で就職するときは、大抵幹部候補であるが、果たして実際的に物事を駆動させている人間と、
その駆動方向を判断する人間、この二つがなければ世の中動かないのか。
実際に手を動かしている人間と、それから頭の中でプランばかり練っている人間。
後者の方は、祭りごとである。


何も生み出さない言葉は、世間の視点から見ると、ほとんどお笑いである。
でも、別の視点から見ると、それは芸術の類である。
人間の世界はよくわからない、本当に。


でも、世の中で生きていくために作られた精神と、
言葉の世界で生きていくために作られた精神は、やはり違う。
後者が世の中に出ると、言葉は強気、プライドは高い、でも何も生み出さない、
というようなものになったりもするのだろう。
普通教育など受けてしまうと、手を動かさなくなってしまうらしい。
手を実際的に動かしている人間がいる中で、うわごとばかり話す。
どっちがよいとかいう話ではなくて・・・。
インチキ霊媒師だと言われたら、あながち間違いとはいえまい。


就活のエントリーシートだって、リクルート信者の学生は、
自己成長とか、要するに自分のことばかり書く。
私はこれこれができる、これこれの資格を持っている、だから非常に有用である。
学生時代はこれに打ち込んで、そこからこのような教訓を導き出した。
対人関係は非常に活発で、大抵の人間と健全な関係を結ぶことができます。
すべてがうわ言のようなものだと思うが、しかし、大卒に求められているのは
そのような「うわ言」をさぞ「真実」のようにいう才能である。
要するに祭りごとなのだから、そこから「戦略」などといった実体のないものを
より多くの人間に信じさせる布教者でなければならない。
時に人間社会は、実体のないものが必要なのである。


エントリーシートに猜疑心を持って、それを書くと皆が同じ語り口になることを知りながらも、
その語り口から逃れられない人間もたくさんいることだろう。
果たして私がしたいのは、こんな信仰宗教のインチキ教祖のうわ言のような言葉を垂れ流すことなのだろうか。
いや、粛々と手を動かして何かを生み出し、地味でも世の中に貢献したいという、派手さはないが堅実な人間の方が
よほど私が社長であれば採用したいのだが、今現在大抵の企業はエントリーシートを学生に書かせ、
そこで道化を演じさせ、どれだけその道化を上手く演じるのかというところを見てたりするのだろうか。
職種がホワイトカラーに近くなればなるほど、多分そうである。


しかし、究極のうわ言は「法律」「科学技術」であろう。
不思議なことに、言葉や記号で表されてはいるのだが、強く人間社会に影響を与える。