かごめ食堂
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2006/09/27
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ひさびさによい映画を見た。「かごめ食堂」。
荻原直子という方が原作、監督で、
食パンのコマーシャルで有名な小林聡美が主演である。
この映画の良いところは美男美女が出てこないこと。
冴えないかもしれないけれど、それぞれの登場人物にそれぞれの事情があって、
お互いがそれを尊重していること。
他人の人生が不幸だとけなすこともない。
よく他人と比較して、比較的自分は幸せだから、自分は幸せなんだという論法でしか
自分を納得させることができない馬鹿な人間がいる。
そういう人間はこの世にあふれていて、そういう人間は決まって傲岸無知であり、
人の不幸をあざ笑うことでしか幸福を実感できないために、他人に迷惑をかける人間がいる。
そういう人間に限って、自分よりも幸福そうな人間に対しては媚びることを惜しまないで、
世渡りだけは上手いのだが、すべてが表層的で、上っ面のみだから話していても詰まらない。
自分が詰まらないことを自覚しているために、他者との間に沈黙が訪れるのが怖い。
いつも忙しなく会話をとぎらせないのだが、本当に親しい友人などは皆無である。
こういう人間は同じく表層的な異性を見つけ、表層的な家庭を築いて、
また傲岸無知で面倒くさい、しかし媚びた方がよさそうな人間にはきちんと媚びる都合のよい
ミーハーな子供を産む。
別段、そんなテーマを論じた映画ではないのだが、この映画が時代に逆らって美男美女という
映画の基本的な構成要素を排除しているところにまず好感が持てる。
さらに言えば、ハリウッドの映画のようにいつもなんどきでもバックミュージックが流れるなんてことはない。
「沈黙」のときは「沈黙」がBGMである。
ハリウッドの映画でBGMが止まるときなどは、エイリアンが人間を見つけようと追っているとき、
潜んでいる人間の顔を映すシーンくらいであろう。
主演の小林氏は、食パンのCMより分かるように美女ではない。
しかし、彼女には彼女にしかできない演技があり、映画があり、それは本当に上品なものだと思う。
上品といっても豪華だとか、そういう意味合いではない。
身の丈に合うという制約の中で、彼女らしさを表現できているという意味合いにおいてである。
つつましさということである。
エンディングソングは井上陽水の「クレイジーラブ」。
私は井上陽水が高校時代からかなり好きで、親には「井上陽水など聴いていると性格が暗くなる」
といわれていたが、聴き続けたものである。
とても私の好みにあう映画だった。